あいの保育園

過去の保育日誌

こりす組 春の懇談会資料②

●自分の好きなことをしているとき心がひらかれる
 生後、八カ月で入園したきよひろくんは、その後二カ月たっても登園後毎日毎日泣き続けました。入園前は、やさしいおばあちゃんにたいせつに育てられていたので、泣くときはいつも「ばーあ」と呼んでいました。泣きむしのこのきよひろくんが泣きやんで自分から保育者のもとをはなれるのは、食事のときと、水道の水の音がしたときでした。
 十一カ月のとき、好きな場所(水道の流し台)に立って水いたずらを始めました。保育者が水道を使おうとそこにいくと彼がかならずはってきていっしょに水をビシャビシャさわります。
 十二カ月のとき、保育者がそこをはなれると、たちまち不安になり泣きだすのでした。けれども、流しに立って水いたずらをしているときだけは、保育者が部屋から出ていっても後追いをせずひとりであそびつづけました。このことは、保育者がいなくてもひとりでいられるという「自分の世界」ができたことを表しています。
 大好きな水いたずらはその後ますます活発になり、周囲が水びたしになるほどでしたので、私が「きよちゃん、もうやめて」と𠮟りますと、彼は「いやっ」「だめっ」の一点張りで強引に水いたずらを続けました。(一歳四カ月のとき)
 幼児が、私たちおとなとのかかわりのなかで、どのように自分自身をとらえられるようになっていくかを理解しなかったら保育はできないのではないかを思います。なぜなら、幼児は、母親や保育者など身近なおとなが、いかにその子を理解するかということが鏡になって、自分をしっかりととらえられるようになっていくには、ますおとなが幼児を理解をすることが先決だということです。きよひろくんの水いたずらの続きを述べながらそのことを考えてみたいと思います。

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 はじめのうちは、流しに残っていた水でビタビタとたたいたりとばしたりしてあそぶだけでしたが、自分で蛇口を開けしめできるようになると、缶や食器を運び込み、周囲に水をこぼしたり、流しの横においてあったごみ箱に水を入れたりして水いたずらがエスカレートしていき、他児がそこですべってころんだり被害が続出しました。そんなとき私が、「もうやめなさい」と強引に蛇口を閉めると、彼は「ばかっ、あっちいけ」といいながら激しく泣き、泣きやむとまたすぐ流しに走っていくのでした。他のことでは、叱られたりするとすぐメソメソ泣いてあきらめる彼が、水いたずらにたいしてはほんとうに頑固なのです。(一歳九カ月)

 きよひろくんが「あっちいけ」というようなはげしい抵抗のことばを発したのは、それまでやらせてもらっていた水いたずらを一方的に禁止されてしまったおとなへの不信感を表すことばではなかったか、と反省しました。そして、私の「もうやめなさい」という一言は、大好きなものを否定された自己否定のことばとして彼にとられたのでしょう。なぜなら、幼児にとって自分の大好きなモノ(好きな行為)は自分自身であり、それを拡大していくことが自己拡大につながることだったからです。
 そう考えてから彼の水いたずらへの対応を改めました。流しのまわりに、大きなバスタオルで縫ったマットを敷き、なるべく床に水を流さないようあそぶ制限をつけました。
 「きよちゃんは、ほんとうに水あそびが好きなのね」ということをまず認め、表したのです。マットから水が流れるほどになったら、それ以上は園庭の足洗い場でやること、つまりは、室内での水いたずらの限界を示したわけです。
 その後、彼の水あそびは戸外へ移っていきました。園庭でも彼は水あそびに余念がありません。
 幼い子どもたちが自分をとらえ自己実現できるようになっていくためには、その子の真実の求めは何なのかを理解しその子に伝えていくことではないかと思っています。おとなが一方的に善悪の判断を下してしまうことにたいして、子どもははげしい混乱と抵抗を示します。
 同じ時期、きよひろくんは家庭でも水いたずらに夢中でした。
《きよひろくんの連絡帳より》
 夕食のしたくをしようと水道を出すと、音を聞きつけて「きーたんも」とやってきて、椅子にあがって手を出すので腕まくりをさせ少しやらせるとうれしそうに茄子や人参を洗っていました。野菜を切るときは「もうお野菜きれいになったからおしまいね」といって水道を止めると、珍しく納得しました。少しでもやらせてもらえることがうれしかったのでしょうか。

 きよひろくんのお母さんといっしょに野菜洗いの仕事をしたことで、彼は、自分の行為が現実の生活と結びつく充実感を味わい、満足したのだと思います。水いたずらから徐々に生活の必要性に応じて水をあつかう活動が育っていくプロセスは、幼い子どもにとってたいへん意味のあることだと思います。

著書:自我の育ちと探索活動 3歳までのあそびと保育
著者:今井 和子

令和8年4月22日(水) こりす組 春の懇談会資料➁

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