令和8年6月1日 園だより No. 713 大坂 大坂麻由美
今月の絵本「14ひきのぴくにっく」
いわむら かずお
この本の主人公は、ねずみの14ひき家族です。表紙をめくると、家族のまわりに咲いている草花たちまでもが、まるで家族の一員のように優しく描かれています。自然をまるごと包み込むような、温かい世界観に、思わず胸がいっぱいになりました。柔らかな色合いが、心をそっと和ませてくれます。ねずみでありながら、人間のお父さんやお母さん、お兄ちゃんお姉ちゃんのように、丁寧に日々を暮らす姿を見ていると、なんだか忘れかけていた日常の大切さを、優しく思い出します。私は最初の数ページから、すっと絵の世界に引き込まれていきました。言葉は少ないのに、森の隅々まで物語が息づいていて、一枚一枚をゆっくり眺めていると、時間があっという間に過ぎてしまいます。まぶしい朝の光の中、14ひきは楽しそうにピクニックに出かけます。小さなとっくん、元気なごうくん、やんちゃなろっくん、台所で一生懸命おにぎりを笹の葉で包むかおりさん……。そんな家族の様子を見ていると、園外保育で子どもたちと一緒に過ごす時間と重なって、つい微笑ましくなってしまいます。園の子どもたちは、毎日の遊びの中で、たくさん体を動かしています。走ったり、よじ登ったり、ぶら下がったり、転がったり、跳ねたり……。お友だちと夢中になって遊ぶ姿を見ていると、心も体ものびのびと育っていく様子が、とても愛おしく感じられます。それは、ただ筋力や運動能力を伸ばすということではなく、「やってみたい」「楽しそう」「もう一回!」という、子どもの純粋な気持ちが原動力になっているからです。その気持ちの根っこには、「自分は受け止めてもらえている」という安心感と、家族やお友だちとの温かいつながりがあります。そばに大切な人がいるからこそ、子どもたちはわくわくしながら自分の体を知り、人と関わる喜びを感じ、自然と体を動かしたくなるのです。私がこの絵本を選んだのも、子どもたちの健やかな姿と重ねながら読んだからです。この本の中には、森のやわらかな空気、草花の優しい色、光のぬくもりがいっぱいに広がっています。小さな命たちが生き生きと動き出す様子を見ていると、こちらまで一緒に森の中にいるような気持ちになり、好奇心がふんわりと湧いてきます。絵本は「読むもの」であると同時に「見るもの」でもあります。作者の優しい想いが、一枚一枚の絵に丁寧に込められています。ぜひ、お子さんと一緒にのんびり絵を眺めてみてくださいね。登場するねずみたちと、お子さんの姿を重ねながら読むと、きっと温かい気づきがたくさん生まれると思います。私はこれからも、ひとりひとりが持っている生きる力を、安心できる環境の中で「だいじょうぶだよ」と優しく見守りながら、「やってみたい」という気持ちを大切に後押ししていきたいと思っています。この絵本のページ全体から、子どもたちを見つめるあたたかな眼差しが溢れていて、大人も子どもも、心のふるさととしてずっと手元に置いておきたくなるような一冊です。どうぞ、ご家庭でもゆっくり手に取ってみてくださいね。
令和8年6月 教育的断片 須藤孝也
子どもの頃、私はいろんなところに連れて行ってもらったのですが、ほとんど覚えていませんでした。きっと、そういう「場所」だけでなく、ほとんどの知識も同じで、私はたくさん目にし、耳にしたのでしょうが、それらのほとんどすべてを覚えることはなかったのだと思います。そしてそれはきっと、「子どもの世界」は、私たち大人の世界とはずいぶん違ったものだったからだと、今になって思うのです。
大人ならば、特定の知識、そこだけの知識、一つの知識を、そのまま受け取り、意味を理解しながら、記憶することができます。しかし子どもは大人のような着眼点から世界を見ているのでありません。大人がそれについて見出す意味を子どもは見出すことができません。だから子どもの記憶には残らないのでしょう。例えば大人にとっては「仙台」は、東北で一番大きな街で、青森市よりもはるかに大きく、なんでも売っていて、牛タンも美味しくて、伊達政宗が築いた街で・・・ということなのでしょうが、子どもはそういうことを一切知りません。話して聞かせたところで全然ピンときません。
じゃあ、子どもには何を見せても意味がないのか、どう接したところで同じなのかと言えば、決してそうではありません。大人と違った目で、子どもは世界や人間たち、事物を見ています。そのお眼鏡にかなったものは、場合によっては大人よりも敏感に認識します。
これはおそらくこういうことなのでしょう。つまり、子ども時代に体験したものは、その子が世界を見る際のいわば「風景」や「背景」を形づくるものになるということ。例えば写真には誰か人が写っていたり、何か動物や物が写っていたりしますが、その人や動物や物は、背景の中に写っています。それは明るい光の中に立っているかもしれませんし、暗い寒空の下に立っているかもしれません。同じものを見ても、背景次第で違ってくるのです。
子どもたちがこれから10歳になり、20歳になり、30歳になり・・・と育っていく時、彼らはいろんなものを見、聞き、知り、身につけていくでしょう。その時にそれらがどんな背景の中で立ち現れてくるのか、背景は彼らの認識を決定的に枠づけるものになるはずです。
子どもたちにはこまごました知識を与えまくるのではなく、むしろこの世界はどういうところなのかということを、感覚や雰囲気を重視して、体験させてあげるということがとっても大事なことのように思います。
